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神戸地方裁判所洲本支部 昭和53年(ワ)16号 判決

原告

小林輝男

被告

株式会社中田工務店

ほか一名

主文

1  被告らは、原告に対し、各自、金一、一二〇万八、七三三円および内金九七〇万八、七三三円に対し昭和五〇年一一月一九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告らに対するその余の請求をそれぞれ棄却する。

3  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は、原告の勝訴部分に限り原告が各被告に対し各金三七〇万円の担保を供するときは、その被告に対して仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、原告に対し、金四、二〇〇万円および内金四、〇〇〇万円に対する昭和五〇年一一月一九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は左記の事故により負傷した。

1 発生日時 昭和五〇年一一月一八日午前一一時三〇分ごろ

2 発生地 兵庫県津名郡五色町五色丘下堺附近路上(以下本件事故現場という。)

3 事故車 大型貨物自動車(以下本件大型車という。)運行供用者 被告松本伊株式会社(以下被告松本伊という。)

運転者 訴外小谷繁(以下単に小谷という。)

4 事故状況

原告は、本件路上において、本件大型車に横付けした小型トラツクに据えつけられたクレーン(以下本件クレーン車という。)を用い、本件大型車から、同車に積載した鉄筋を吊り下す作業に従事中、同車が横転し、原告の左足が同車の下敷となつた。

5 被害の内容

(1) 左足関節挫滅創、左下腿切断

(2) 昭和五〇年一一月一八日から昭和五一年二月一日まで七六日間入院

(3) 昭和五一年二月二日から同年一二月二日まで治療実日数二六日間通院

(4) 後遺症 左下腿切断(労災等級五級)

(二)  責任原因

1 原告は被告中田工務店の作業員であつたが、本件事故当時、現場監督下茂の指示にしたがい前記作業をしていた。

本件事故の原因は、下茂が、〈1〉 鉄筋おろし作業を全面的に業者に委託せず、原告らに作業をさせ、〈2〉 大型クレーン車を用いようとせず、原告の抗議にかかわらず能力不足の二トン未満用のクレーンを使用させ、〈3〉 自からは現場におらず作業の安全を確認しなかつたことから発生した。使用者である被告中田工務店は、労働者との雇傭契約上の義務として、右契約関係特有の労働災害による危険に対して労働者を安全に就労させるべき安全保証義務を負い、かつ、現場監督が事業の執行につきなした加害行為に対し使用者として賠償責任を負うものである。

よつて、被告中田工務店は、右安全保証義務違反としての債務不履行責任、または民法七一五条の使用者責任(以上を選択的に主張する。)により、原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2 被告松本伊は、鉄筋業者で、事故車の運行供用者であるところ、小谷繁をしてその指揮監督のもとに事故車を運行させた。

(1) 同被告は、鉄筋おろし作業については、鉄筋の重量から見てそれに適したクレーンを用い、かつ、専門の人間を使つて、作業を完了すべきであるのに、これを用意せず、小谷及び白水をして作業に当らせ、

(2) 小谷及び白水は、本件車のグリーンの吊り上げ能力を越えた重量の鉄筋資材を玉掛けした過失がある。

なお、本件事故は、路上に駐車して荷おろし作業中に発生した事故であるから自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条本文にいう「運行によつて」生じた事故というべきであるから、被告松本伊は同法三条により、または、被告松本伊の雇傭者である白水、小谷の前記過失行為によつて本件事故を発生せしめたものであるから同被告は使用者として民法七〇九条、七一五条により(以上を選択的に主張する。)原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 原告は、昭和一四年四月生れで肩書地において長男として父母と自分の子三人を扶養し、被告中田工務店の作業員兼運転手、身分は準社員として昭和四五年以来勤務し、その傍ら父らの手伝を得て、朝晩、或は農繁期に農作業に従事した。同被告での昭和四九年一二月から昭和五〇年一一月までの一年間の平均月収は一一万〇、九三五円である。農業収入は年間二一五万円の収入があり、経費は三割ぐらいでその純収入は一五〇万五、〇〇〇円となる。そのうち原告の寄与率は少くとも七割ぐらいで年間一〇五万三、五〇〇円で、月収は八万七、七九一円となり、右両収入を合わせると月収は一九万八、七二六円となる。然し農業収入については若干不正確であり、給料収入についても右のほか盆暮の寸志があつたので、原告の月収について完全な把握ができない。よつて、自賠責保険査定において、現実収入額の立証が困難な有職者につき、昭和五〇年二月一日以降発生の自動車事故については、別表(一)が用いられているので、原告の年齢本件事故当時三六歳としての、月収一七万八、六〇〇円の限度において逸失利益を計算すると、原告の負傷内容から原告は事故後五年間は全く稼働し得ず、その間の逸失利益は一、〇七一万六、〇〇〇円となる。

178,600円×12×5=10,716,000円

そこで、被告中田工務店から支払われた九八万九九五〇円を控除すると、右五年間の逸失利益は九七二万六、〇五〇円となる。

2 自賠責保険査定において、前記同趣旨の者につき昭和五四年二月一日以降発生の自動車事故については、別紙(二)が用いられているので、事故後五年を経過した原告の年齢四一歳としての月収三〇万〇、八〇〇円を基礎として、六七歳までの二六年間を、喪失した労働能力七九パーセントの限度において、将来の逸失利益を現価計算すると、四、六七〇万六、〇九四円となる。

300,800円×12×0.79×16,379=46,706,094円

よつて、原告の逸失利益は合計金五、六四三万、二、一四四円となる。

3 原告は、負傷による肉体的精神的苦痛のみならず、前記後遺症のため、長く歩行したり立つたりすることができず、全く走れないし、足の痛みやしびれが続き、腰が痛い。入院中に二回手術し、義足を用いているか、今後、収入を得る作業につくことなど全く不可能で、簡易な農作業のみでは生計が立たず、家族ともども生活不安に悩やまされている。よつて、原告の右苦痛に対する慰藉料として金一、五〇〇万円が相当である。

4 原告は弁護士に委任して本訴を追行せざるを得ず、少なくとも弁護士費用として金二〇〇万円を要する。

(四)  よつて、原告は、被告に対し右計金七、一四三万二、一四四円の内金四、二〇〇万円および内金四、〇〇〇万円に対する本件事故の日である昭和五〇年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因事実に対する答弁

1  請求原因(一)の1、2の事実は認める。

2  同(一)の3の事実のうち小谷か事故車を運転していた事実のみを認め、その余の事実は否認する。

3  同(一)の4の事実のうち本件大型車の運行供用者が被告松本伊である点を争いその余の事実は認める。

4  同(一)の5の事実は不知。

5  同(二)の1の事実のうち、原告が被告中田工務店の従業員として鉄筋のおろし作業をしていた事実のみを認め、他の事実は全て否認する。

6  同(二)の2の事実は全て否認する。

7  同(三)の事実は不知。

三  被告の主張に対する認否並びに原告の主張

(一)1  被告中田工務店から支払をうけた見舞金一〇万円と昭和五〇年一二月二七日支払をうけた金二三万円は入院中の付添婦の費用及び入院雑費に充当した。

2  乙第二号証の二から同号証の一〇までの計金九八万九、九五〇円は既に述べたとおり逸失利益より控除ずみである。

3  被告主張の障害補償年金は本件損害より控除さるべきものではない。

(二)  事故原因について

1 本件事故は、中田工務店の安全対策の手抜かりの結果、必然的に発生した。すなわち、同工務店は、建設業を営むことを業とする者であり、建設工事は、その作業の性質上、危険をはらむもので、作業中に事故が発生するときは、作業員に致死傷の結果を生ずる危険があることは明らかであるから、同工務店としては、危険の発生を防止するに足りる人員および設備機械の配置を行なうべきは当然である。

2 本件事故は、大型貨物自動車に積載した鉄筋資材を吊り上げ吊りおろす作業中に発生したのであるが、そもそも、資材を運搬した被告松本伊と被告中田工務店との取引約定は、被告松本伊の責任は、現場までの資材運搬にとどまり、現場での吊りおろし作業は被告中田工務店の責任というのであるから、同被告としては、吊りおろす鉄筋資材の重量および分量からみて、安全にこの作業を終えるには、専門の大型クレーン(トラツククレーン)を雇つて行なうか、自ら行なうのであれば、それに適した設備と指揮監督者および作業員らの配置が絶対に必要であつた。

3 しかるに、被告中田工務店は、本件作業については、費用を節減して、トラツククレーンを使用しなかつた。これが根本的な誤りである。即ち、簡易クレーンはクレーン作業による荷役の省力化とトラツクの運搬機能とが一台で行えるクレーン付「トラツク」であり、用途としては、「手積みが困難な」比較的重い物品の積みおろし荷役の省力化を主目的とし、あくまで、運搬機能に荷役省力化機能をプラスした「トラツク」であり、これに対しトラツククレーン車は積載スペースがなく、「吊上げ作業」を目的とする移動作業車である。よつて、本件のような四二トンもの鉄筋資材を大型トラツクから吊りおろす作業はトラツククレーンを使用すべきは当然である。(この理がはつきりしているからこそ、下茂証人は、ユニツトクレーンを前日に手配したことを否認し、小谷証人は、専門のトラツククレーンの手配があつて到着が遅れたごとく虚偽の事実を述べ、いずれも、ユニツトクレーンの使用はやむえない偶然であつたように事実を歪曲している。なお、このような資材をユニツトクレーンで吊りおろすことがあるとの松本本人の供述は信用できるものではない)。現場監督の下茂は、事故前日につり上げ能力二トンのユニツトクレーンの手配を原告に命じ、当初から、鉄筋吊りおろし作業をユニツトクレーンで行うつもりであつたことは明白である。

4 本件作業を被告中田工務店が自ら行なうのであれば、安全にこれを行なうためには、そもそも、作業が安全に行えるかどうかの判断が出来、作業を適切に指揮命令できる能力のある現場監督と、ユニツトクレーンの能力に応じた分量の資材を仕わけして、玉掛できる、玉掛資格のある作業員ならびに、このような鉄筋資材をユニツトクレーンで吊り上げ吊りおろすことに習熟した作業員とが必要である。しかるに、現実には、現場に配置されていた現場監督(したがつて、現場での安全管理の最高責任者)は、経験不足の若輩者で、そもそも、現場を安全に統括し、作業を進める能力を欠いていたものである。鉄筋吊りおろし作業には、被告中田工務店の側には、玉掛は一人もおらず、小谷と同人が連れてきた被告松本伊の倉庫係の二人が、玉掛をしており、結果的には、ユニツトクレーンの能力を越えた重量の鉄筋を玉掛した。しかも、下茂から、資材の吊りおろしを命じられた原告は、これまで、このような多量の鉄筋資材を、大型トラツクからユニツトクレーンで吊りおろしたことは全くなかつたのである。原告はそれまで、加工鉄筋や鉄筋加工機などの手積が困難という程度の重量物を、地上から荷台に上げ、荷台から地上におろしたことがあるにすぎなかつたのである。このような原告に吊りおろしを命じたのである。

5 このように、使用目的を逸脱したユニツトクレーンの使用、いいかげんな玉掛作業員、やつてみなければ、吊り上げたり、吊りおろせるかどうかわからない作業員、作業を適切にしかも安全に行なえるかどうかの判断能力を欠いた現場監督、これらの要素がそろつたため、起こるべくして起つたのが本件事故で、被告中田工務店の人的物的設備の欠陥は否定できない。

6 なお、ユニツトクレーンは、二トンを越える重量の鉄筋を玉掛したから転倒した。クレーン車の足は堅固な地盤上にあつた。事故直後に、多くの作業員や警察官が直接視認しているのである。

(三)  原告の無過失について

1 被告中田工務店には、事故当時、作業現場は五、六ケ所あり、現場には必ず現場監督をおき、そのもとに数人あるいは数一〇人の作業員をおいて、作業に当らせた。現場監督は、作業員や出入りの下請職人らを指揮し、現場を統括した。被告会社の中田社長は、どの現場に誰を現場監督にするか、どの作業員を配置するか、決め、工事の進捗その他一切、現場監督にそのつど指示を与えた。

2 原告は、農家の長男で、農業を営みながら、兼業として、被告中田工務店に勤めた。その期間も、事故まで、わずか五年数ケ月にしかならない。その職種は、雑役で、作業現場の手伝いと運転を兼ねた。同被告から受けた給与は日給月給であつた。

乙五号証には、原告が現場主任補佐であるという記載があるが、これは、事故後に原告に対し、勝手な肩書をつけたもので、原告の同被告における身分は、あくまで常傭日雇いであつた。

3 したがつて、原告は、現場監督の指図にしたがつて、現場における作業をすすめざるをえない弱者の立場にあつた。現場監督の下茂が、原告に、事故前日、ユニツトクレーンの使用を命じたのにも、原告は反対し、事故当日も重ねて反対の意思表示をした。下茂は、それにもかかわらず、ユニツトクレーンの使用を命じた。原告としては、立場上、監督の命令には逆らえなかつた。鉄筋資材を安全に吊り上げ吊りおろせるか不安を抱いたまま作業をすすめざるをえなかつた。

このように、原告は、監督に命じられた作業を指図どおり一生懸命にしたまでであつて、その結果、このような事故が発生したのであるから、その責任は全面的に同被告にある。

4 したがつて、鉄筋資材の吊り上げ吊りおろし作業について、吊り上げたものの一つ一つの重量をはかるべきだとか、玉掛に対し適切な分量を吊ることを注意すべきだとかを論ずることは、事故原因を前記のとおりとらえる限り末梢的な机上の空論で、これらをもつて原告を指弾する理由とならない。原告には、事故発生に原因を与えた過失は全くない。

四  被告松本伊の主張

(一)  被告松本伊には使用者責任はない。

1 小谷は、本件事故当時、西浦興業の商号で貨物運送業を独立営業しており、被告松本伊と同人との間に雇傭関係があつたことは全くない。

また被告松本伊は同人に対し、一か月二回程度の割合で単に貨物の運送を委託していたにすぎず、同人の運送業務やそれに付随した積みおろし業務等を指揮監督したこともない。

2 白水は被告松本伊の従業員であるが、本件の被告松本伊と被告中田工務店間の鉄筋資材の売買契約はオントラツク契約であつて玉掛業務を同人が手伝つたのはいわゆるサービスであり、同人が被告松本伊の業務執行としてしたものではない。また同人に本件クレーンの能力を超えた重量の鉄筋資材を玉掛した過去もない。すなわち、同人は玉掛資格を有しており、原告が本件クレーン車を転倒させた際の鉄筋の太さ(直径二二ミリメートル)や長さ(七メートル)から計算すればクレーンの能力範囲内である二トンを超えていないことが明らかであるからである。

(二)  被告松本伊には運行供用者責任はない。

1 本件大型貨物自動車は、松本伊が保有していたことは現在まで一度もなく、本件事故当時も登録名義は所有者が日産デイーゼル兵庫販売株式会社、使用者がツカモトシゲアキで、実質は小谷がツカモトから右自動車を買いとつていたのであつて、松本伊と本件トラツクは何らの関係もない。したがつて、松本伊は本件大型貨物自動車につき、運行支配も運行利益も存しない。

2 仮りに被告松本伊において原告主張の大型貨物自動車を運行させたものであるとしても右大型貨物自動車は、単に原告自身の操作するクレーン車に平行してエンジンを停止して駐車していただけであつて、しかも、原告の負傷は原告自らのクレーン操作の一方的不注意によつて引き起こされたもので、右貨物自動車の積荷の落下等に基因するものでもないのであるから、右貨物自動車の駐車と原告の負傷との間に相当因果関係は存在せず、本件事故は右貨物自動車の「運行によつて」生じた事故といえないことは明らかである。

五  被告中田工務店の主張

(一)  使用者か、一般的に労働者との雇傭契約上の付随義務として労働災害による危険に対して労働者を保護し、そのために必要な職場環境の安全を図らなくてはならないとしても本件においては、被告中田工務店は、原告に対する安全教育を施行していたことは勿論、本件ユニツトクレーンは当時何らの構造上の欠陥も存しなかつたのであるから、被告中田工務店に安全保証義務の不履行は存せず、本件事故は全く原告のクレーン操作についての不注意から生じたものであつて、被告中田工務店には何ら責に帰すべき事由はない。

このことは自動車の運転者が自らの過失で事故を惹起した場合と同様に論ぜられるべきものである。すなわち原告は昭和四五年六月頃から被告中田工務店に継続勤務してクレーン操作作業に従事してきた被告中田工務店における本件クレーン操作の専門家であつたこと、クレーン操作について被告中田工務店は原告に必要な講習も受けさせていること、本件現場においては現場主任として下茂が配置されていたが、同人は本件現場が淡路では最初の現場であつたので被告中田工務店の社長に特に要請して淡路の現場の事情に明かるく経験も豊かな原告を現場主任補佐としてつけてもらつたこと、したがつて現場作業面については原告が実質上の現場主任であつたこと、下茂はクレーン操作については知識もなかつたので、本件クレーンを使用することについては最終判断をせず、原告および下茂と相談した上原告が最終判断を下したこと、等からみて原告は本件クレーン使用を自己の判断で自己の職務としてなしたものであることが明らかである。しかも本件クレーン車は構造上の欠陥も全く存しなかつたし能力不足ということもなく、原告は本件クレーン車を使い慣れていたのであるから、アウトリガーの接地地盤の固さ安定性、操作位置、吊り上げ量やブームの旋回速度、旋回方向、傾斜角度等に注意すべきことは知悉していたのである。

したがつて、原告が右の諸点を事前に点検して本件作業を開始し、作業中においても本件クレーンに装備されている荷重指示計等をみるという、ごくわずかの注意を払つてさえいれば本件事故の発生を容易に回避できたものである。しかるに、原告は、事故前に相当量の雨が降つて地盤が軟弱になつていたにも拘らず、アウトリガーと地盤との間に補助板を入れる等の補強措置をとらず、かつ、本件クレーンで吊り上げた鉄筋の重量を本件クレーン車に設置されている荷重計で確認もしないまま、ブームを急旋回させ、しかも荷重指示計の確認を怠りブームの角度を不用意に倒し、(ブームを倒すほど重いものがつれなくなることは初歩的知識である)

さらに、操作位置も本件クレーン車では両側から操作できたのであるから、安全な、事故当時とは反対側の位置で操作すべきであつたのにそれをしなかつた等の重畳的過失によりみずから本件クレーン車を転倒させたものである。

しかも原告は本件クレーン車が傾きかけたのに気づくのが遅れ、したがつて原告が転倒回避の措置を考えてとつた農協方向へブームを戻した行為がかえつて転倒を促進し、転倒が不可避な状況になつたことの判断も遅れるという過失を重ねてしまつたのである。

ところで、原告は本件クレーン車を使つたこと自体が事故の原因の如く主張するが、本件クレーン車は従前から本件作業と同様の作業に使用されてきており、本件以外は事故発生は一度もなかつた。このことは本件事故が原告の本件クレーンの一方的な操作ミスに基くものであることを裏付けている。

(二)  被告中田工務店には民法七一五条に基く責任も存しない。すなわち、前記一記載の通り本件事故は原告の一方的不注意に基くものであり、下茂には何らの加害行為もないからである。

下茂は、専門家である原告に対し、本件作業開始前にその方法について相談したところ、原告が安全にやれるということだつたのでその言を全面的に信頼し、原告に本件クレーン車を使用するかどうかを一任していたものである。

下茂が現場事務所にいたことをもつて、下茂の原告に対する加害行為があつたことの原告の主張は、前述の原告の本件現場での地位、職務内容、経験年数等に鑑みれば、理由のないことが明らかである。

六  被告らの抗弁

(一)  過失相殺

仮りに被告らの免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記第二、一記載の通りの過失があるから、損害額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

(二)  原告の損害の主張に対する抗弁及び反論

1 損害の填補の抗弁

原告には次の通り損害の填補がなされている。

(1) 被告中田工務店から

昭和五〇年一一月一八日 金五万円

同年同月一九日 金一〇万円

同年同月二七日 金三〇万円

同年一二月二七日 金二三万円

昭和五一年二月九日 金一一万円

同年三月一日 金一一万円

同年四月七日 金一一万円

同年五月四日 金一一万円

同年六月五日 金一一万円

同年七月六日 金一一万円

同年八月五日 金一一万円

同年九月二七日 金一一万円

以上合計 金一六七万円

(2) 淡路労働基準監督署あるいは兵庫労働基準局から労働災害補償保険に基く

(イ) 休業補償給付金として

金一一万二四〇二円(昭和五一年一二月二四日)

(ロ) 特別支給金として

金三万七四五三円(昭和五二年一二月二四日)

(ハ) 療養の給付として

金六八万六三六五円

(ニ) 障害補償年金として

金六〇万三二五〇円(昭和五二年分)

金七九万一九八四円(昭和五三年分)

金八二万四〇九二円(昭和五四年分)

金二七万三八三七円(昭和五五年分のうち同年二月支給額)

以上合計 金三三二万九三八三円

なお、障害補償年金は今後当該疾病について廃疾等級に該当する廃疾が存続する限り支給され、本件においては永続して支給されることが明らかであるから、当然損害賠償額から控除されるべきものである。

2 逸失利益について

(1) 原告は、現実収入額の立証が困難な有識者であるとして自賠責保険査定において使用されている年齢別平均給与額の表を用いているが、農業収入については原告の父についてその居住地の町長作成の所得証明書が容易に入手できるものであるし、農業統計資料も入手可能である。

したがつて、右表により原告の月収を推認することはできないものというべきである。

なお、原告の収入の算定にあたつては事故発生時の年である昭和五〇年を基準にすべきである。

(2) 原告の症状固定日は事故後約一年を経過した昭和五一年一一月五日(甲第三号証)であるから、原告の事故後五年間はまつたく稼働し得ないとの主張は理由がないことは明らかである。

(3) 中間利息の控除方式については、従前ホフマン式計算方法(単利)が採用されていたが、現在はライプニツツ式計算方式(複利)に合理性があることが認められ東京地裁等で採用されるに至つている。したがつて、本件においてもライプニツツ方式による合理的控除がされるべきである。

(4) 後遺症による労働能力の低下の程度について、原告は七九パーセントと喪失率表に基く主張をするが、右表は重要な参考資料となるものの、この表が等級により喪失率を一律に定めているので数値の機械的適用はできず、後遺症の部位、程度、被害者の年齢、性別、職業に対する適応度等から具体的な評価が必要となる。ところで、原告の後遺症は左下腿切断による一下肢を足関節以上で失つたものであるが、左股関節、左膝関節に可動域の制限、知覚障害はなく、義足の装着により機能も相当程度回復しており、壮年男子である原告にとつて事務労働は完全に就労可能である。

したがつて、喪失率算定の際には右事情が斟酌されるべきである。

なお、被告中田工務店としては原告に事務職としての就業を保証したにも拘らず、原告はこれを拒否し、現在に至るも何らの職に就いていないものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告は、昭和五〇年一一月一八日午前一一時三〇分ごろ、本件事故現場において小谷の運転する本件大型車に横付けした本件クレーン車を操作して本件大型車に積載した鉄筋の吊り下ろし作業に従事中、本件クレーン車が横転し、原告の左足が同車の下敷となつた事実については当事者間に争がない。

成立に争のない甲第七、第八、第一〇号証、乙第三号証、原告本人の尋問結果(第一回)とこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証、証人小谷繁の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証、事故当日警察官によつて撮影された本件事故現場の写真であることに争のない甲第六号証の一ないし一八、証人井こと下茂正一の証言並びに原告本人の尋問結果(第二回)、被告中田工務店代表者本人及び被告松本伊代表者本人の各尋問結果を綜合すると、

1  被告中田工務店は建築業者であり、被告松本伊は建築資材の販売会社であるところ、同被告は、被告中田工務店に対し鉄筋約四二トン売買契約を結びこれを同被告が建築施工している兵庫県津名郡五色町下堺所在の五色丘農業協同組合野菜冷蔵庫新築工事現場(以下本件工事現場という。)で所謂オントラツク契約即ち車上渡で引渡すこととし、但し、車から鉄筋を吊り下ろすに必要な玉掛け作業は被告松本伊で負担とすることとしたこと、そこで同被告は、その専属運送業者である小谷に右鋼材の運送を委託したこと、小谷は前同日自己の所有する本件大型車(一一・五トン車)に右約定の鉄筋約四二トン(以下、本件鉄筋という。)を積込み、被告松本伊の使用人で玉掛けの資格を有する白水某を同乗せしめて本件工事現場に到着したこと、そこで、被告中田工務店の右工事現場の監督である下茂より同被告所有の本件クレーン車で本件鉄筋を下ろす旨告げられたこと、

2  下茂は被告中田工務店の現場監督で二級建築士の資格を有していたが当時二三歳で経験も少なく、淡路島は始めてであり、クレーン車についての知識が少なかつたので、年齢も三六歳で地元の人であり経験も豊富な原告を日頃頼りにしていたこと、原告は、昭和四五年三月ごろから被告中田工務店に勤務し、普通トラツクの運転、作業員の送迎及び現場作業等に従事し、普通免許を有していたこと、そして本件クレーン車のような簡易クレーン付トラツクは特別の免許を要せず、普通免許を有すればこれを運転操作することが出来るものであり、原告においては本件クレーン車を運転するため最初、講習をうけており、その後約三年程本件クレーン車を運転し、積荷その他の資材等の積み卸しの経験を有していたこと、本件クレーン車は三菱ふそう簡易クレーン付四トントラツクで最大吊上荷重は二トンであり、手積みが困難な比較的重い物品の積み卸し荷役の省力化を目的とする車であるが、車の両側にアウトリガー二基が装備されておりクレーンの安定を確保するようになつており、又車の左右両側に全油圧式操作レバーが装置されており、右装置レバーの上の見やすい場所に吊荷の重量が直ぐわかる荷重計がついていたこと。

3  下茂は、前日、既に本件鉄筋が本件工事現場に入ることを知つていたので、原告に対し、明日鉄筋が本件工事現場に入るから本件クレーン車を手配するように指示していたこと、そこで原告は、翌一八日午前一〇時ごろ、本件クレーン車を運転して本件工事現場に到着したこと、そのとき本件大型車は既に到着していたこと、原告においては、本件大型車の鉄筋の積載量から見て一抹の不安を感じ本件クレーン車で下ろすのか下茂に問い質したところ、下茂はそうだと答えたこと、然し、下茂は前記のようにクレーンのことについては不案内であつたので右の指示は命令的というよりはむしろ原告に相談的であつたこと、そして、原告は右積荷の下ろし作業を了承したこと、そこで、原告、下茂、小谷及び白水らは車の位置及び鉄筋の下ろし場所等を打合せ、そして右の者達は本件クレーン車の最大吊上荷量が二トンであることは了知していたこと、その結果、下茂は県道から前記五色丘農業協同組合への進入路へ少し入つた地点である本件事故現場の進入路の西側の道路脇に鉄筋を寸法別にして下ろすように指示したこと、右進入路は幅員約八メートル位であるが、砂利道であり、昨夜の雨で濡れていたこと、道の西側は川の土手となつて続き土手の下を川が右進入路に沿つて流れていたこと、下茂はこのように指示しただけでその近くにある被告中田工務店の現場事務所へ行つたこと。そこで、本件大型車は右県道より少し入つた前記進入路に車の前部を県道の方に向けて停車したこと、そして、原告は、同車に平行して、その西側に同じく車の前部を県道の方に向けて停止させたこと、そして、原告は本件クレーン車の左右アウトリガー二基の足を伸ばして砂利道の地面に接着させたが、前記のとおり地面は夜来の雨で若干軟弱であり、殊に西側のアウトリガーの接着点は川の土手に近く軟弱であつたが、原告においては何等これについて地面の軟弱等についての点検等の配意することなくアウトリガーを伸ばして地面に直接接着させたこと。それから鉄筋の下ろし作業を開始することになり、原告は本件クレーン車の西側の操作レバーを操作して鉄筋を吊り上げ、吊り下ろしをしたのであるが、片足をアウトリガーの地面に接していたところにある鉄盤の上にかけてそこの感じで若しその鉄盤が浮くようになれば荷が過重であると判断するような方法、程度で前記荷重計を見ることなく、白水及び小谷らの玉掛けした鉄筋の束を吊り上げたこと、このように最初の約二回は吊り上げた鉄筋をブームを左に旋回させて川に沿つて進入路の西側に吊り下ろしたが、次の回の分は前回よりも長尺ものであつたので別の場所に下ろそうと思い、玉掛けされた鉄筋を白水らの合図で吊り上げようとしたところ、吊り上げられないので前回よりもブームを起こして吊り上げたところ、吊り上げられたので今度は、ブームを右に約一八〇度旋回させ、ブームが川にほぼ直角になる位まで来たところで旋回を止め鉄筋を下ろそうとしたところ、ブームを起こした関係上鉄筋が自分の頭上近くに来たので本件クレーン車より一米位西側に離して下ろそうとしてブームを倒したところ、突然同車が自分の方に傾斜しかけて来たので慌ててブームを戻して車の横転を防止しようとしたが及ばず、同車が自分の方に倒して来たので危険を感じ逃げようとしたが左足を蔓草にとられ転倒したこと、そして当事者間に争がないとおり、左足を同車の荷台に設置されていた木枠に挾まれ下敷となつたこと、本件クレーン車の西側のアウトリガーは、事故後の警察官の実況見分によれば、地下に深くくい込んでいたこと、また、原告が最後に吊り上げた鉄筋の重量は前記原告本人の尋問結果によれば、原告が入院中同人を見舞に来てくれた被告中田工務店の現場監督川西の言によれば同人の計算によれば約二トン三〇乃至二トン三〇〇は少なくともあつたと言つていた旨を述べているが、前記事実即ち最初の鉄筋を吊り上げるブームの角度では本件事故時の鉄筋を吊り上げられず、ブームを起こさねば吊り上げ切れなかつたこと、及びクレーン車の横転している事実等を考え併せると右川西の計算はほぼ肯認されること。

以上の事実が認められ、これに反する証人下茂正一、同小谷繁の証言並びに被告ら会社代表者本人の各尋問結果の一部はいずれも措信し難く他にこれを覆すに足る証拠はない。

二  右認定事実によれば、

1  本件クレーン車は三菱ふそう簡易クレーン付四トントラツクで最大吊上げ荷重は二トンであり、主として手積みが困難な比較的重い物品の積みおろしに用いるものであるところ、本件鉄筋は約四二トンあるが、何れも分束されているので最大吊上げ荷重の範囲内に分けて吊り下ろすことは可能であり、トラツククレーン車に比し一度に多量のものを吊り上げ、下ろすことは出来ないが、許容吊上げ量の範囲内で時間をかけてすれば出来ないことはなく、本件においては、下茂は経験者である原告の意見も聞き、本人も了承していること、及び作業場所も時間をかけても他の交通に支障のない場所であることが認められる点を考えると、下茂の本件クレーン車をして本件鉄筋を下ろす作業を原告に指示したことをもつて未だもつて過失ということは出来ないところである。然し乍ら下茂は、本件作業現場の監督であつて作業の責任者であり、同人には作業員をして安全に就労せしめるべき注意義務を有するものと解すべきところ、前日本件工事現場付近には降雨があつたのであるから地盤の堅さ等を点検し、本件クレーン車のアウトリガーの接地については監督者としても十分配意すべきであるのにこれをなさず、又、監督として本件荷卸し作業について全般的な立場から本件鉄筋の量から見て本件クレーン車による荷卸しが過重なりや否や、原告本人の操作能力は十分か、吊り上げ位置及び吊り下げ位置が適切なりや、吊り上げ量が過重ではないか等作業の実際を見て本件作業が安全に運行しうるかどうかについて指揮監督し、作業員の安全保護について配慮すべき注意義務があるのに前記のように唯鉄筋の吊り下げの場所のみを指示した後、後は原告に任かせて自分は近くの現場事務所へ行つてしまい本件事故も後からこれを知つている事実を考えると下茂には被告中田工務店の工事監督者として前記注意義務を怠つたものというべく下茂の過失が認められる。

2  被告松本伊においては玉掛け作業については、その代金が売買代金に含まれるかどうか、或はサービスとして無償で行つたものかは判然としないが、有償にせよ、無償にせよ、本件玉掛け作業は、被告松本伊の本件鉄筋の売買契約の附随作業と認められるところである。而して右業務に同被告の倉庫係で玉掛けの資格を有する白水と同被告の専属の運送業者である小谷が白水の補助者として何れも同被告の玉掛けの業務に従事したことが認められるところ、玉掛け作業においては、クレーンの最大吊上げ量以下の玉掛をし、若し吊り上げ量が過重と感じたならばクレーン操縦者に合図して吊り上げを中止させ、もつて危険の発生を未然に防止すべき注意義務を有すると解すべきところ、本件事故が発生する直前における白水及び小谷らが玉掛けした鉄筋の量は前示説示のとおり、二トンを超えていることが認められるところであり、そして、最初の二回の玉掛をしたときは異状なく本件クレーン車による吊り上げ、吊り下ろしが行われたのであるが、最後の玉掛けをしたときは前記二回と同じ角度では吊り上がらず、原告においてはブームを更に起こして吊り上げたということが判つているのであるからかかる場合にはクレーン操縦者に荷重計による荷重の量を確認するよう注意を喚起し過重ならば直ちに操縦者に吊り上げ中止を合図すべきであるのにこれを怠り、漫然原告がクレーンを操作するに任かせた点について白水らの過失が認められるところである。そして、白水らの右行為は被告松本伊の業務遂行中の過失行為というべきである。

3  一方、原告においては、本件クレーン車の操作について、講習も受け、既に運転経験三年位を有しているのであるから、若し本件クレーン車による本件鉄筋の荷卸しが同車の能力或は自己の能力から見て出来ないと判断したのであれば、下茂から本件クレーン車による荷卸しを指示されたとき明確に右旨進言すべきであるに拘らずことここに出でず、然も下茂において右指示は強くなしたものではなく、同人もクレーン車については知識がなく本件クレーン車のことについては原告に任かせていたのであるから、若し原告において右理由を述べ明らかにこれを拒否すれば下茂においても敢えて右指示をなさなかつたであろうことが推認するに難くはないところであり、そして本件クレーン車による本件鉄筋の荷卸し作業は客観的に見て不能ではなく、その使用方法に誤りがなければ右作業が可能と解せられるところ、原告自身においてもこれを可能と判断して本件作業を行つたものであるが、本件事故は原告自身の過失も次の点に認められるところである。即ち、(1) アウトリガーの設置については地盤が軟弱であるかどうかはクレーン車の運転者としては先ず配意すべき基本的な注意義務であるにも拘らず、本件事故現場付近の地盤は夜来の雨で軟弱となつており殊にアウトリガーの接着地点は路肩で川の土手に接し砂利道であるからこの点慎重に点検をなし若し軟弱であるとの疑があれば地面との間に厚板等を入れる配慮が必要であるにも拘らずこれをなさず漫然アウトリガーを伸ばして地面にそのまま接着させたこと、(2) 更に右操縦者として基本的なことは吊荷の荷重を正確に知り、そのうえで吊荷を安全正確に操作して作業をすることであり、本件クーレン車には操作レバーの前の見やすいところに荷重計が設置されているにもかかわらず、原告においては従来からこれを見ずに唯、感に頼つて作業をして来たことが推認されるところ、今回の場合も、吊り上げたものは吊り下ろせると考えの下に作業を行つており、最初の二回位は無事に荷卸しをすることが出来たが、最後の本件事故が起つた直前の鉄筋を吊り上げようとしたが吊り上がらなかつたのであるから、かかる場合、操縦者としては先ず第一に荷重計を見てその荷重が幾何かを確認すべきであるのが基本的なことであるのにこれを怠り、漫然ブームを更に起こして吊り上げたというのである。然しブームを起こせばそれだけ回転半径が短かくなり、従つて吊り下ろし地点が中心に近くなり、所定の地点に下ろせなくなることは操縦者としては考えねばならず、そうすれば必然ブームを倒さなくては所定の位置に下ろせないことになるのである。そうすれば重量が過重の場合にブームを更に倒すことは車が倒れる危険に結びつくことは容易に考えられたにも拘らず、原告においては、重量を確認せず吊り上げ、軽々にブームを倒して鉄筋を下ろそうとしたところに原告の操作上の過失が認められるところである。以上によれば本件事故は、被告中田工務店の従業員下茂の過失、被告松本伊の従業員白水とその補助者小谷の過失の競合による共同不法行為によつて生じたものであるが、なお原告自身の過失も認められるところであり、そして、原告と被告ら側との過失割合は六対四と認めるのが相当である。

よつて被告らは、共同不法行為による使用者として、右割合によつて連帯して原告の蒙つた損害を賠償する義務があるというべきである。

三  損害

(一)  逸失利益

成立に争のない甲第二、第三号証、第四号証の一ないし一三、並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)及び被告中田工務店代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると原告は昭和一四年四月生れで本件事故当時三六歳であり、被告中田工務店の作業員兼運転手として勤務し、その傍ら父の農業の手伝をしていること、原告の同被告における昭和四九年一二月から昭和五〇年一一月までの一年間の平均月収は金一〇万九、一三六円である。原告の父は本件事故当時六二歳位で母は六〇歳位でともに農業に従事し、田は七反、畑一反位で他に牛一頭を飼育し、原告は主として農業用機械を運転して父の農業の手伝をし、その寄与率は五割程度と認められること、そして農業収入は年間金二四〇万円位でありその経費は三割と認められる。そうすると原告の農業収入は年間金八四万円(月収金七万円)となり、右両収入を合わせると原告の月収は金一七万九、一三六円となること。

なお、この点について原告は原告の収入について現実収入の額の立証が困難であるから自賠責保険査定において使用される別表(一)、(二)を用うべき旨主張するも、本件においては原告主張の如く右立証が困難な場合であるとは認められず、原告の主張は採用しない。

そして、原告は、本件事故により左下腿切断(左股関節、左膝関節に可動域の制限なく、右下腿に知覚障害なし。)の傷害をうけ、昭和五〇年一一月一八日から昭和五一年二月一日まで七六日間入院、同年二月二日から同年一二月二日までの間二六日間通院したこと、以上の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。

そうすると、原告の負傷内容から見て、原告は本件事故後二年間は全く稼働し得ないことが認められ、その間の逸失利益は金四二九万九、二六四円となる。

算式 179,136円×12×2=4,299,264円

次に、本件事故後二年を経過した原告が年齢三八歳になつた時点で前記平均月収を基礎とし六七歳までの就労可能年数二九年を喪失した労働能力を七九パーセントとして将来の逸失利益を、その支払を一時にうけるものとしてライプニツツ式計算法で計算すると金二五七一万二、五八五円(四捨五入)となる。

算式 179,136円×12×0.79×15.141=2,571万2,585.49…円

(二)  慰藉料

原告の負傷による肉体的、精神的苦痛及び後遺障害に対する慰藉料として前記諸般の事を考慮するとき、右苦痛に対する慰藉料として金四〇〇万円が相当である。

(三)  そうすると、原告は被告らに対して各金三、四〇一万一、八四九円の損害賠償請求権を有するところ、原告には前示の過失があるので前示減額率六割によつて相殺すると金一、三六〇万四、七三九円をそれぞれ各被告に対して請求しうることになる。

(四)  弁護士費用

弁護士費用は弁論の全趣旨により金一五〇万円をもつて相当と認める。

(五)  損益相殺

成立に争のない乙第二号証の一ないし一〇、五号証の一ないし五及び被告中田工務店代表者本人の尋問結果によれば、原告は被告中田工務店より右損害の填補として計金一二一万九、九五〇円の支払をうけ、また労働災害補償保険にもとづく休業補償給付金及び障害補償年金として計金二六七万六、〇五六円の支給がなされていることが認められるから、右請求し得べき余額金一、五一〇万四、七三九円より右合計金三八九万六、〇〇六円を差引くと結局金一、一二〇万八、七三三円が原告が被告らに対してそれぞれ請求し得べき金額となる。

四  そうすると、原告の被告らに対する各請求は、その余の原告の主張について判断するまでもなく、各金一、一二〇万八、七三三円及びこれより弁護士費用を控除した金九七〇万八、七三三円に対する本件事故の翌日である昭和五〇年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 住田金夫)

別表(一) 年齢別平均給与額(平均月額)

〈省略〉

別表(二) 年齢別平均給与額(平均月額)

〈省略〉

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